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光を運ぶ

人に優しくしなさいという言葉を、毎日聞かされて育った。困っている人がいたら、手を差し伸べなさいと。それが自分の利益にならなくても、心の底からそうできる人々が、どれだけいるのだろう。 私は一本の木を見上げてそんなことを思った。私はそういう人間になれているだろうか。強い風が吹い...

このまま二人で

綺麗なものだけ見て生きたい。汚いものとか、怖いものとか、悲しいものとか、そういったものから目を逸らして、綺麗で、可愛くて、あったかくて優しいものにだけ触れて生きたかった。でも、もし世界から嫌なものが全部無くなったら、綺麗なものだけで世界ができていたとしたら、今綺麗なものは綺...

まよいびと

世の中には善悪が存在する。 死後の世界では、人間は悪行を為さず、善の心を持つことで六道輪廻から脱却できるとされてきた。人間は現世で行ってきたことを、全て記録されている。 倶生神は、人の善悪を記録する神である。彼らは人が生まれると同時に生まれて、常にその人間の両肩に乗っかって...

雪解け

子供の頃、大人になりたいと思ったことはあっただろうか。いざ大人になってみると、子どものあの無邪気さも、学校帰りの泥臭さも、ぜんぶ愛しく思えてくるものだ。ランドセルを背負って駆け回る小学生や、単語帳を手に持って電車に乗っている高校生がなんだか目につくようになってしまった。そし...

鉤爪の怪物

夢を見た。 薄汚れた寝台の上に横たわっている。暗い、知らない部屋だ。小窓の外には杉の群れがあり、真っ黒に立ち尽くしている。ここはどこだろう_____ずいぶん長い間寝ていたようで、寝る前のことがとんと思い出せない。 私は背中を起こして部屋を見渡した。起きるときに違和感に包まれ...

夜を撫でる手

ある古いおうちに、一匹の黒猫と、一人のおじいさんが住んでおりました。おじいさんは時計を直すお仕事をしていました。依頼のない日は、黒猫と一緒にご飯を食べて、あたたかなお布団で眠っていました。黒猫はおじいさんのお膝の上に座って、そのしわしわした手に撫でられているときが、いっとう...

執筆:もりやまさくら 制作:まいの

スカイブルーの夢

指先に乗せたスカイブルーを見つめて、私は思わず微笑んだ。 人生で初めて、マニキュアを買った。普段は学校があるからネイルなんてできないけれど、夏休みに入って、ちょっとだけ背伸びをしてみたのだ。机の上に置かれたマニキュアの瓶は、文房具に囲まれてなんとなく居心地が悪そうだったけれ...

ツギハギ

誰にだって、ツイてない日っていうものがあると思う。何をやっても何だかうまくいかない日が。そしてそれが何日か続く時が人生の中で何回かあって、自分はたまたま今その時なだけだ── そう思っても、朝からの憂鬱な気分は消えなかった。...

溶け出す

昔から、太陽が、夏が、苦手だった。 カンカン照る陽射しも、ジリジリ体を蝕む暑さも、ユラユラ揺れる陽炎も。 最近は年々暑さも増して、クーラーをつけていないと耐えられなかった。クーラーは体が怠くなるから、あまり好きじゃないのに。...

露命の声

ある川に、一匹の小さな魚がおりました。 魚の一日は平凡で、普段は川の中の小さな生き物や、草なんかをちょいちょいと食べて、たまにお昼寝をしたり、お水の綺麗な上流の方へお出かけしたり。特別なことはなかったけれど、毎日楽しい、そんな日常を過ごしておりました。...

一寸先すら見えないような、真っ暗な世界の中にうっすらと浮かび上がる小道が辛うじて見える。その小道を二人の妖精が並び歩いている。 「この道を歩くのも、もう何十年ぶりかな」 妖精の一人、べトーレが言った。 「子供の頃は、肝試しによく皆で遊んだものだね。真っ暗闇の中を、出口の人間...

朱鷲

島には二つの山と、清水の湧き出る三つの泉がありました。  山の一つは、頂上まで往復しても半時間もかからないような小さなもので、私たちが普段生活のための水を汲んでいたのもこの山の泉です。私も子供の頃はよくここへ水を汲みに来ましたが、その湧き水の冷たく、きらきらと透き通って美し...

星追う人

耳を澄ますと、波音が聞こえている。いつの間にか、わたしは眠っていたのだ。海風が柔らかい波のように寄せて、しっとりと肌を濡らしている。見上げると、月も星もない夜空だった。 故郷から離れて、もう幾日経つだろう。この黒い空では、方角を知る由もない。遙かな空を見遣りながら、遠いとこ...

春のように

私は車窓の方に顔を向けながら、流れていく長野の青い山々と真っ青な空を眺めていた。イヤフォンからきらきらと零れるトランペットの音色に聴き入りながら、窓に頭をもたせ掛ける。田の面が映す太陽の光は流れ星のように光っては流れ、空には飛行機雲がいくつか流れていた。横浜から長野に向かう...

夢は繋ぐ

8月20日の暑い昼下がりのこと、私は汽車を美濃駅で降りて人の少ないバスに乗り換え、岐阜の山の中へと向かっていた。長良川に沿って北上し、小さな目印がぽつんと一つ立っただけの停留所で降車してバスを見送ると、後にはただ自分一人。そこは既に岐阜の奥深い山の中である。そこから蝉の鳴き...

キスツスの花

ずっとピアノが好きだった。 小さい頃からピアノを習っていた。負けず嫌いだった私は、人一倍練習をして、周りの友達の誰よりも上手くあろうとした。小学校と中学校の合唱コンクールでは、いつも大きなピアノの前に座っていた。すごいねと褒められて、ありがとうと言いながら、少しだけ自分が物...

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