昔から、太陽が、夏が、苦手だった。
カンカン照る陽射しも、ジリジリ体を蝕む暑さも、ユラユラ揺れる陽炎も。
最近は年々暑さも増して、クーラーをつけていないと耐えられなかった。クーラーは体が怠くなるから、あまり好きじゃないのに。
その日もそんな、太陽の照りつける夏の暑い日だった。
前日に夜更かししていたからか、起きたのはもう昼の時間だった。夜に寝苦しくてつけていたクーラーのタイマーはとうの昔に切れてしまっていて、蒸し風呂みたいな部屋の中での最悪な目覚めだった。サウナにいるみたいだった。こんなの死んでしまう。散らかった机からリモコンを探して、とりあえずまたクーラーをつける。今月の電気代は見たくないな、なんて思いながら、汗でべとべとになった服を脱いだ。
さっとシャワーを浴びて、簡単な服に着替える。古着屋で買ったTシャツに、高校時代のジャージを手に取りかけて、流石にどうかと横にあったジーパンを履いた。シャワーを浴びたからか、頭がすっきりするとなんだかお腹が減ってきた。冷蔵庫を開けてみたけれど、普段自炊なんてしないから、昨日買って飲み切れなかったチューハイが転がっているだけだった。仕方がないから、どこかで調達するしかない。私は財布とスマホだけ持って玄関へと向かった。近くのコンビニに行くだけだから、クーラーはそのまんまでいいだろう。こまめに消した方が電気代が高くなるって、どこかで読んだことがある。
外に出たくないな、と思いつつも、私は玄関の扉を開けた。開けた瞬間にむわ、と熱気が押し寄せてきて、思わず顔をしかめた。その熱気に合わせて、蝉の鳴き声が大音量で響く。あまりにうるさいものだから、なんだか責め立てられているような気がして、私は足早にコンビニへと向かった。
コンビニの自動ドアをくぐる頃には、さっきシャワーしたのが失敗だったなと思うくらい汗をかいていた。コンビニは空調が効きすぎていたけれど、火照った体にはちょうど良くて、ふうと息をついた。いらっしゃいませ、とだるそうな店員の声を聞きながら、私はふらふらと店内を歩き始めた。お腹が減っているとはいえ、こってりしたものを食べる気にはならない。最近はもっぱら冷麺とかうどんとか、冷たくて食べやすいものばかり買っていた。今日もそうして、なんとなく冷麺を手に取る。そばの棚には小洒落たカタカナのラベルが貼られたお惣菜が置いてあったけれど、新発売のポップがなんだかダサくて嫌だった。
お昼ご飯は確保できたわけだけれど、なんとなくまだ外に出るのが嫌で、近くをうろうろしていると、アイス売り場が目に止まった。小さな箱のなかで冷やされているアイスたちが、なんとなく今の自分みたいで面白かった。せっかくだからこの中の一つくらい、私と一緒に外に出てもいいだろう。私はなぜか売れ残っている一番安いソーダ味の棒アイスを持って、レジに向かった。さっきのだるい声の店員だった。
「袋、どうされますか」
「あ」
ちょっと間延びした声で聞かれて、レジ袋が有料になったことを思い出した。別にいらなくても持って帰れるけれど、パックの冷麺を持ちながら歩くのがなんとなく嫌で、結局「ください」と小さい声で言った。
冷麺とアイスが入った袋を持って、私はコンビニを出た。さっきとおんなじ、むわ、とした熱気。すぐに脳裏に買ったアイスのことがよぎった。クーラーの効いた部屋で食べるか、今食べるか、どっちがいいだろう。そんなことを考えながら数メートル歩いたけれど、私は呆気なく暑さに負けて、袋の中からアイスを取り出した。アイスの個包装を破いて、レジ袋に突っ込んだ。やっぱり袋を買っておいてよかったじゃないかと納得してみる。
ソーダ味のアイスは、青空と雲が混じり合ったみたいな色をしていた。口に入れると、冷たさで舌が少し痛む。私は家までのんびり歩きながら、アイスを食べ続けた。夏は嫌いだった。でも、夏の味は悪くないな、なんて思いながら。
執筆:らっこ
制作:まる
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